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2014/08/21

○○心理学の台頭


前回のエントリで初期の心理学についてまとめたが、今日でも心理学のメジャー分野として名を馳せているいくつかの分野が20世紀に次々と起こる。

まずは発達心理学。発達心理学はその名の通り、人間の、生まれてから死ぬまでの発達をテーマとする。学校教育の普及や教育哲学からの流れで児童に興味が持たれるようになったのを背景に、発達心理学は児童心理学からスタートした。例えば1930年代ごろから活躍したピアジェは、「私たちはどのようにして身の回りの世界に対する認識や理解を獲得するのか?」という問題提起から実験を行い、子供の認知の発達には段階(感覚運動―前操作―具体的操作―形式的操作)があることを示す。行われた実験には例えば、保存課題(容器に入った液体を異なる形の容器に移し、見た目が変わっても量が等しいことを判断できるかを調べる)などがある。認知の発達は子供と環境の相互作用によってなされるとし、子供は自己中心性→社会性を得る、という社会化のプロセスを発達とみた。一方、ヴィゴツキーは別の発達理論を提唱した。ヴィゴツキーの考えはピアジェとは逆で、自己の発達は、人びととの関係の中に自己が現れることから始まり、のちに自分自身の心理内に自己が組織化されるとした。
ボウルヴィーが展開した愛着理論(1958-60ごろ)も有名である。母と子の結びつきの強さは母が子の生理的欲求に応える機会が多いから、という従来の説を覆し、母と子の間には情緒的な結びつきがあるとした。ハーローによるサルを使った代理母実験(ミルクを与える針金の母とミルクの出ない布でできた母のどちらと子ザルはいたがるか)でも母親が愛着の対象であり、安全基地として機能しているという結果が見られる。前述した、人間の発達理論を作ったエリクソンも発達心理学領域で活躍した人である。

続いて人間の個人差を測ることに関わる差異心理学。ここには知能検査などの開発や研究、人間の性格について研究する人格心理学が含まれる。例えばフランスのビネは自分の子を観察し、シモンと、子供の知的活動を総合的に測るためのビネ―シモン式知能検査を1905年に開発した。知能検査はウェクスラーによって成人版(ウェクスラー成人知能検査WAIS)も1955年に開発された。人格にまつわる説は古代ギリシャの頃からあった。例えばガレノスは、ヒポクラテスの唱えた4つの体液(血液、粘液、黄胆液、黒胆液)が気質を支配しているとした。19世紀になると、クレッチマーが体格ごとに特徴的な気質(躁うつ気質、分裂気質、粘着気質)があるという理論を唱えた。また前述したユングは、人間の態度を関心が自分に向く内向と、関心が外界に向く外向に分け、さらに自分と環境を関係づける方法として思考―感情、感覚―直観の4つの心理機能を提示した。これらは「類型論」と呼ばれている。つまり、型が存在しており、そこに人間をあてはめていくやり方だ。そんな類型論に異議を唱えたオルポートは「特性論」を元に人間の性格を定義しようとした。個人を、様々な特性が結合した状態ととらえる見方だ。
ちなみにアメリカでは戦争中、知能検査や性格検査が軍隊で取り入れられ、軍人の戦闘、軍生活に対する態度や行動、リーダーシップ、神経症症状等の傾向を調べるのに使われたようだ。

次は社会心理学。扱うテーマは幅広い。ざっくりまとめると、社会における個人の行動や相互作用、集団の行動、心理がメインである。実験を行うことも多い。社会心理学は、フランスで当時行われていた群衆や模倣の研究(社会学)や、19世紀末~20世紀前後にかけて展開されていた2つの自己の考え(主体性の根拠となる自我、他者の態度や役割によって社会化された客我)の影響を受け、1930年頃から始まった。レヴィンは1940年頃、「グループ・ダイナミクス」という考えを提唱する。これは、集団内における個人は、その集団のもつ性質やどんな成員がいるかによって影響を受ける、というものだ。第二次世界大戦後には前述した行動主義も廃れてきており、社会環境が個人に影響をもたらすという考えが行動主義に変わるアプローチとされ支持を得た。アッシュの印象形成における初頭効果(最初の印象が残る)、ハイダーやケリーの帰属理論(身の回りに起こった出来事や、自己/他者の行動に対して、どこに原因があると推察するか)などがある。また、1960年代になると、権威に対して人は自身の道徳観を無視するということがわかったミルグラムの実験や、一般の人が看守役と囚人役に無作為に分れられて刑務所内で生活するうちに互いにどんな変化が現れるのかを実験した、ジンバルドーのスタンフォード監獄実験(http://www.prisonexp.org/)が行われた。スタンフォード監獄実験は、映画「es」の題材にもなっている。

認知心理学も忘れてはならない。認知心理学が扱うのは、注意や知覚、記憶、忘却、言語の産出、問題解決や意思決定などの仕組み、意識などである。コンピュータや人工知能の技術が発展したことに影響を受けて1950年代からスタートした。脳を情報処理装置とみなし、コンピュータの情報処理過程のモデルを適用するなどして人間の認知過程を明らかにしていく。初期の認知心理学の代表的な人物は、人間が一度に記憶できるのは7つまでの情報の塊であると発表したミラーや、人間の知覚に及ぼす人格要因や社会的要因の影響も示したブルーナーなどである。目撃証言記憶の曖昧さを明らかにしたロフタスも認知心理学者である。ロフタスはいくつかの実験を行った。例えば、模擬事故の現場を被験者に見せ、そのあとで、2台の車が衝突している/どんと突き当たった/接触した/ぶつかった/ときどれくらいのスピードで走ってましたか?と聞くと被験者は、衝突したときと質問された時に、より速いスピードで走っていたと答えた。また、事故で窓ガラスは割れていなかったのにもかかわらず、衝突したときと質問されると割れていると答える人が増えたという。
ヒューリスティック、バイアスの概念も認知心理学の分野である。ヒューリスティックとは簡単にいえば経験則のことで、人が問題解決や何らか意志決定を行う際に時間や手間を省けるような手続き・方法である。しかし経験則はいつも有効であるとは限らず、経験則のせいで物事を偏って認識する(認知バイアス)という事態が生じることもある。ある側面で望ましい特徴のある人間に対して、全体評価を高くする傾向があることも、ハーロー効果と呼ばれるバイアスの1つである。

最後に臨床心理学をちょこっと。臨床心理学は、精神に不健康をきたしている人間を対象とし、カウンセリングや心理療法などの治療行為もこの領域に含まれる。臨床心理学分野では1960年代、人間性心理学とよばれる心理学が起こった。行動主義や精神分析に対するアンチテーゼとして、このころの哲学の実存主義(個別、主体的な存在として人間を捉える)からの影響を受けた。マズローは、自己実現を目指す5段階の欲求階層説を唱えた。またロジャースは、人間には外部から自由になり自律性に向かう傾向が内在しているとし、指示的・分析的な精神分析とは対をなす、クライアント中心療法(指示を与えず、患者の体験に心を寄せて尊重し、患者の本来の力を発揮させて問題の解決を促す)を始めた。また認知心理学を治療に応用した認知行動療法(物事の捉え方を修正していき、行動を変容させる)も、1967年、ベックによって提示された。