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2014/08/24

心理学はどこへ行くのか

心理学の全体を俯瞰するのに始めたエントリーもいよいよ終盤。ここまで心理学の起源と心理学における研究領域をいくつか紹介してきたが、最後に最近の心理学についてまとめておこうと思う。
まず今更ながら一つ付け加えておくと、心理学は大分類として基礎心理学と応用心理学に分けることができる。基礎心理学は主に人間の心理について、一般的な法則を見つけようとする分野である。前回記載した、臨床心理学を除く○○心理学(発達、人格、社会、認知)は基礎心理学に位置づけられている。応用心理学は、基礎心理学で明らかになった知見をもとに実際の現場、社会に活かしていこうとする領域である。その代表的なものが臨床心理学だ。臨床心理学は主に、精神に不健康をきたしている人たちの精神を理解し、必要とあらば治療して望ましい方向へ持っていく、ということをしている。現在も引き続きさかんに研究がなされているが、ここ数十年間で、不健康な人以外をもターゲットとする、健康増進のための、より精神的に充実した生活を送るための心理学が登場した。健康心理学とポジティブ心理学である。

健康心理学は1978年頃、アメリカでスタートした。精神の不健康だけでなく、身体の健康や疾病に関わる心理を研究する分野だ。例えばフリードマンの「タイプA」理論。心臓疾患を患った人を調べると性格や行動に一定の傾向が導き出せたことから、この傾向をタイプAとし、心臓疾患にかかりやすい人たちの特徴的な傾向とした。タイプAには競争的、野心家、攻撃的、いらつきやすいなどの傾向が含まれる。また、ストレスもこの分野でメジャーな研究テーマの1つである。ストレスがたまる=病気になりやすい、は長年言われ続けてきたことだ。しかし健康心理学者のマクゴニガルは、ストレスの捉え方を変えればストレスは健康のための味方になると主張する。人間は普通、ストレスを感じると、心臓が高鳴り、血管が収縮(心臓病の原因とされているものの1つ)し、呼吸が早くなり、汗が出るなどの身体症状が現れる。しかし実験によって、ストレスを有用なものと捉えた人は、心臓が高なるものの、血管の収縮は起きなかったという。そしてこれは、喜びや勇気を感じているときの身体の状態と同じだそうである。また、ストレスを有効なものと捉えるための根拠としてオキシトシンを提示する。人間はストレスを感じるとオキシトシンを分泌する。オキシトシンは他の人と親密な関係を求めるようになるほか、血管を弛緩状態に保ったり、心臓細胞の再生を促したりと、ストレスから回復するための機能も持ち合わせているという。

ポジティブ心理学もやはりアメリカで、1998年頃からスタートした。一言でいうと、どうしたらより幸福な生活を送ることができるかを研究する分野である。この分野の代表的な心理学者はチクセントミハイである。彼は様々な職業や民族の人にインタビューし、彼ら、彼女らがどういうときに幸せを感じるか、そしてそのとき彼ら、彼女らはどんな状態なのかを調べた。チクセントミハイは、人はフロー状態にいるとき、幸せを感じているとした。フロー状態にはいくつかの要素がある。それは「、達成できる見通しのある課題に取り組んでいる、自分のしていることに集中している、行われている作業には明瞭な目標があり、フィードバックされる、意識から日々の生活の気苦労や欲求不満を取り除く、無理のない没入状態で行為が行われている、自分の行為を統制しているという感覚、フロー後、自己感覚はより強く現れる、時間の経過の感覚の変化、である。(一部引用:http://goo.gl/UgM81e)この他、フローに入りやすい/入りにくい性格傾向、環境なども指摘している。

最近の心理学でにおけるもう1つの潮流は進化心理学である。人間の心の働きの基本を、進化によって環境に適応的に形成された情報処理、意志決定システムから成り立つものとして捉える立場だ。つまり、人間の心や行動、そしてそれを生み出す脳を進化の産物とし、状態や変化の動因を適応に帰結する。動物において研究がなされている性淘汰理論(異性獲得競争を通じておきる進化)や互恵的利他行動(即座の見返りがなくとも、あとの見返りを期待して他の利益になることを行うこと)などを人間の行動や心理にもあてはめて考えていく。

数回に分けて心理学の歩みをざっくり振り返ってきた。ではこれから心理学はどこへ向かっていくのか。これまでの心理学は、人間の心的過程はどうなっているのか、何が起こっているのかという、現象を解くということが多くなされてきたと思う。ヴントの内観法や行動主義、認知心理学、社会心理学、発達心理学でなされてきた実験やモデルづくりに見ることができると思う。その一方で、なぜその現象や行動が起こっているのか、という議論もなされてきた。これは精神分析からの潮流に顕著に見ることができる。これらの、これまでなされてきた理由付けは、思弁的なものが中心だった。つまり、心理学者が現象や実験結果を元に、なぜそれが起こるのかを論理的な形で考えていった結果としての説、ということだ。しかし、昨今の心理学はより実証ベースでの理由づけをしていく傾向があるように感じる。なぜそうなるのかを、目に見えるものを使って1つ1つ裏付けしていくということだ。それは、神経科学や生物学の知見がどんどん明らかになってきていることが大きく影響している。デカルトが提唱した心身二元論は今では廃れ気味で、精神を脳の活動と捉える見方が優勢だ。しかし、脳、神経ネットワークの仕組みや遺伝子の仕組みの解明はまだ始まったばかりである。しかもどちらも複雑な仕組みであり、完全な解明ができるのかも分からない。しかし、解明作業は進められており、心理学に神経科学や生物学の知見を取り入れ、現象を説明することは今後も続いていくと思う。心理学は自然科学の系譜を受け継いでおり、精神と脳は切り離せなくなっているからである。